きゃべつそふと『さくらの雲*スカアレットの恋』感想 ※ネタバレなし
お久しぶりです。今回は2020年9月25日発売のきゃべつそふと最新作『さくらの雲*スカアレットの恋』の(なるべく)ネタバレなし感想を綴っていきたいと思います。
目次
共通ルート感想
まず、本作は大正ロマンを主軸とした、タイムスリップ・ミステリーです。前作『アメイジング・グレイス(以下アメグレ)』のほとんど同スタッフが開発チームとなり、その系譜を継ぎながら、主人公が元の時代に戻るために努力するという一本道のストーリーになっています。
タイムスリップした先で主人公「風見 司(かざみ つかさ)」は自らを「大正のシャーロック・ホームズ」と名乗る金髪碧眼のイギリス人女性に出会い、彼女が経営する「チェリイ探偵事務所」に居候しながら、様々な事件を解決し、ヒロインたちとの絆を深めていくことになります。
まず初めに一番アメグレと比較して思ったところは、司くんがクッソ有能です。アメグレの主人公シュウくんが無能だったと言いたいわけではないのですが、わりと直情型で突っ走るタイプだった彼と比べると司くんは終始落ち着いていて、物事を俯瞰しながら冷静に判断するのでミステリーとして単純に読みやすく、読者がその後の展開やトリックを予想する足掛かりを作ってくれていたと思います。とはいえ冷血漢ということもなく、しっかりと盛り上げる場面では熱くなってくれるので燃え上がることができました。また彼の未来人としても幅広い知識が鼻につくことはなく、嫌味のない頭のいい人物だったのも評価点です。
アメグレのときもそうだったのですが、明らかに怪しい文章に加えて何気ない日常のシーンにもがっつり伏線を張ってくるので、一字一句を目を皿のようにして読みました。何がミスリードになっているのかわからず手探りで読んでいく感触は癖になると思います。絶対今回は叙述トリックに騙されんぞって気でいたのですが、見事に騙されました。後で読み返すと答え合わせのようで、二周目の面白さもある傑作だと思います。
加えて目標が明確なのもよかったです。アララギという不思議な雰囲気をまとった観測者の少女に、何をし、何を正さなければ帰れないのかをしっかりと提示されるので、物語の方向性が見失われることなく進んで行ったのは置いてきぼりに成らずに済みました。
ただ名作あるあるというか、アメグレでもそうだったのですが、序盤は正直退屈です。コテコテの展開にセリフ、一つ一つの章にあまり繋がりがないので寸劇のように感じてしまうのはありました。
アメグレが「事件→事件→事件→大どんでん返し→解決」だったのに対し、さくレットが「事件→解決→事件→解決→どんでん返し→解決」の構図なのが所以だと思いました。正直これは好みの問題ですが。批評空間のどなたかのレビューにあった、単話完結の12話構成アニメを見せられてるって感想は合点がいくものがあると思います。
あと加藤大尉がもろ『帝都物語』のパロディで笑いました。名前も容姿も設定もセリフも同じだしこれ大丈夫なん?と思った。
個別ルート感想
ここからは個別ルートの感想です。ネタバレは極力回避していますが、やはりどうしても触れなければならない要素もあるので、気になる方は読み飛ばしてください。
1.遠子ルート
不知出遠子嬢です。正直一番お話としては感動も爽快感も薄く、味気なかった。前作のキリエルートみたいな感じです。まあ他が素晴らしすぎるだけで良ゲーの部類ですが。
その小さな肩には重すぎる悩みと問題を抱えている彼女ですが、わりとさっくり解決されます。もう少々丁寧に描いて欲しかったなという感想が正直なところです。いかんせんどのヒロインにも負けず劣らずのいいキャラしてたばかりに、かなり残念でした。
彼女は他のルートや共通で輝く、舞台装置タイプのキャラクターだと感じました。
このモガの格好とかすねた表情とか、メチャクチャ好きだっただけに悲しい……
2.蓮ルート
水神蓮ちゃんです。名字からしていきなり多重人格になったりしたらどうしようかと思いました。あっちは水上ですけど。
彼女のルートはなんというか、等身大の大正の女性を描きながら、そんな女性が少し不思議な出来事の巻き込まれてしまうという次第で、ほのぼのとしたものでした。
もちろん物語の根幹に関わる伏線はあるのですが、アメグレが個別ルートを見なければ、言い換えればそのヒロイン固有の世界観に関する謎があったのに比べ、蓮ちゃんは正直蓮ちゃんじゃなくてもいいというか、彼女のルートでなくても知り得た可能性のある真実が散りばめられています。
では不要かと問われるとそれは断然否であり、一番さくレットの世界と大正という舞台を表現し、キャラを立たせていたのはこの娘でした。ころころと変わる表情だったり、少しませてるところだったり、ヒロインとしての魅力もさながら、最も「こうであったかもしれない」というifの中では幸せを感じられるエンドだったと思います。
メリッサルート以降出番が減ってしまう彼女ですが、上記のような属性から、シリアスな物語の清涼剤と上手くなっていて、登場するたび癒やされました。
ただHになるととんでもないことになります。いや本当に。
3.メリッサルート
メリッサです。なんか所長の次に力入ってました。彼女専用の事件イベントがあったり、人間ドラマとしてもかなり厚みがあるし。
彼女のルートでさくレットにおけるキャラクターそれぞれの立ち位置や背景、関係性などが判別するので非常に重要なキーパーソンです。彼女がいなかったら司とアララギは絶対に正しい枝を選ぶことが出来なかったですし、所長ルートの可能性も万一つなかったと思えるぐらいの内容の濃さでした。一番物語の中で正統派ミステリをやっていた気がします。ちょっとツッコミどころはありますが。
彼女のルートのオチは話の途中から大方予想がつくものの、いざ実際に読むと爽快感と鳥肌が半端なかったです。
やはりこのルートだけはどう頑張ってもネタバレ無しで感想書けないんでとにかくやって欲しいですね……
4.所長ルート
所長です。このルートのためにさくレットはあると言っても過言ではなく、これまで積み上げたあらゆる事実とそれに帰する根拠を全て使用し、集大成として完成させたルートです。
アメグレに続く固定概念トリックや叙述トリックも当然のことながら、SFや歴史ものとしても非常に完成度・難易度ともに高く、話を理解するのに何度も咀嚼が必要なルートでした。
確かに一つ一つの要素は、あらゆる作品で見かけたような初歩的な謎だったり、使い古された概念なのですが、いかんせんそれの組み込み方というか、物語の全体像を把握したときの構成の仕方が本当に上手いです。
アメグレほど長い種明かし編でもないのですが、これはこれでコンパクトにまとまっていてよかったのではないかと思います。グランドエンドとしては短めですが、それまでのルートで渡されたタスキと、所長との心理的距離の接近があったのでボリュームの物足りなさは感じませんでした。
冒頭で記したよう、どんでん返しの衝撃で言うと、いかんせん探偵ものというジャンルの性質からアメグレの方が大きいのですが、泣きゲーとしてはさくレットの方が一枚も二枚も上手でした。ED「比翼のさくら」の効果もありカタルシスが尋常ないほどあります。他作品で申し訳ないですが「キラ☆キラ」鹿之助ルート、「サクラノ詩」雫ルート、「G線上の魔王」ハルルート、「向日葵の教会と長い夏休み」雛桜ルートと同等の感動がありました。"こんな"終わり方でなく"この"終わり方だからいいと思わせるのは本当に圧巻です。
ただHシーンで所長の匂いで壊れた蛇口みたいに射精するのは笑っちゃった。
総評
総評としては、間違いなく買ってよかったと思い胸を張って他人に勧められる作品でした。プレイしたあとに「ああ、エロゲやっててよかった」という感動をここまで抱かせてくれる作品も少ないと思います。 シナリオゲーの再プレイって結構カロリー使うから忌避しがちですが、さくレットはまた1・2年後にやりたいと思える作品でした。必要カロリーを有り余る感動がありますからね。
劇伴に関しても物語の雰囲気や色と非常にマッチしていました。特に「Nostalgia」「ゑだわたり」とかずっと聴いてます。レイトンシリーズの謎解き曲っぽくて好きです。あと先ほど述べた通りED曲「比翼のさくら」が本当にいいです。歌詞はネタバレ上等ですけど(グランドエンド曲なので当たり前ですが)、二人の最後を飾るのに相応しい曲と言えるでしょう。
また、やはりアメグレとの比較の話となると、自分は「ミステリのアメグレ、泣きゲーのさくレット」だと思いました。さくレットはミステリーと謳ってはいますが謎解きの重層感といいますか、点と点がつながっていく過程はアメグレの方が丁寧で大きかったと思います。ただ自分がアメグレで納得のいかなかった、「タイムリープ(ループ)」に対する明確な答えを提示してくれているのはかなり評価点でした。
とはいえアメグレ対さくレットという構図に関しては、自分と正反対の感想を述べている人も見かけるので、そこは個人差として受け取っていただければ。
自分の文章力でネタバレなしだと表層ばかりなぞっているような感想になってしまい恐縮ですが、興味がありましたらぜひぜひやってみてください。またその魅力が一部でも伝えられていたら幸いです。
今作できゃべつそふと、引いては冬茜トムさんの新作はこれからも買っていこうと思います。手始めに未プレイの『もののあはれは彩の頃。』はやってみたいですね。
末筆になりますが『さくらの雲*スカアレットの恋』は、確実に令和を代表する作品になると思います! 文字通りね。